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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)4002号 判決 1961年12月18日

原告 小島一男

<外二名>

右三名訴訟代理人弁護士 深沢勝

<外三名>

右訴訟復代理人弁護士 伴昭彦

被告 関東石油株式会社

右代表者代表取締役 竹村弘

右訴訟代理人弁護士 山田直大

右訴訟復代理人弁護士 利穂要次

被告 鳥居士郎

同 鳥居武

右被告両名訴訟代理人弁護士 環昌一

主文

被告関東石油株式会社は原告らに対し各自金一八七、五〇〇円及びこれに対する昭和三五年五月二八日以降完済まで年六分の金銭を支払え。

被告鳥居士郎は原告らに対し各自金一〇四、二〇一円、被告鳥居武は原告らに対し各自金八三、二九九円及び右各金額に対する昭和三五年五月二七日以降完済まで年六分の金銭を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告らが不動産の売買等の仲介を業とするものであることは被告鳥居両名の認めるところであり、この事実から原告らと被告会社との関係においても原告小島、塙が右の取引業者であると認めるべきであり、また原告草木が登録を受けた右の取引業者であることは被告会社の認めるところである。

そして原告主張の一、(二)の事実は被告鳥居両名の認めるところであり、二、(四)の事実中同年一〇月中旬頃被告会社が原告草木、塙に対し本件土地の買受について斡旋を依頼したことは同被告会社の認めるところであり、二、(五)の事実中原告主張の頃その主張の関係者が被告鳥居方に集合したこと及び二、(六)の事実中原告主張の頃本件土地について被告らの間にその主張の代金で売買契約が成立し登記を経由し売買が完了したことは当事者間に争のないところである。原告塙は被告鳥居両名から本件土地の売却斡旋の依頼を受けたと主張するけれども、この点に関する証人船橋不二也の証言によつては、原告塙の被用者である同人は被告鳥居側で本件土地の売却を希望していることを他から聞きこれを確かめるために同年春頃同被告方を訪問し被告鳥居両名の父春之助からその意思のあることを聞き自己の立場から買主を探すため尽力したことを認め得るに止まり、その際春之助から売却斡旋を依頼された趣旨の同証言は証人鳥居春之助の証言と対比し措信し難く、他に右依頼の事実を認むべき証拠はない。

しかしながら前記当事者間に争のない事実に右船橋証人の証言と原告ら三名の各本人尋問の結果によれば、原告塙は前記のように春之助から本件土地を売却する意思あることを確め買主を探すため、土地の図面(甲第二号証)を複製し、その一部を原告草木に交付し買主の周旋を依頼したので、同原告は、たまたま同年一〇月中旬頃その店を訪れた被告会社の社長に右土地の話をしたところ同社長は坪当り一一万円位で買受を希望しその斡旋を依頼したので、これを原告塙に報告したこと(この場合原告草木を客付と称しその元である原告塙を元付といい客付である業者は元付に連絡して斡旋に尽力する)そこで原告塙は売買成立の見込あるものと考え交渉を進めるため被告鳥居方を訪問したところ被告士郎の妻春代から売却については原告小島に斡旋を依頼してあるから、同原告と協議されたい旨の申出を受けたので、被告鳥居から売却斡旋を依頼されていると思つていた原告塙は原告小島と協議する必要を感じその結果被告鳥居両名の仲介者である原告小島と被告会社の仲介者である原告塙、草木らは相談の結果原告ら三名が売主側買主側の仲介者として共同して斡旋に尽力することを定め、原告小島が売主の元付となり、原告草木が買主の客付として被告らを会合させる連絡をなし同年一一月二〇日頃右関係者全部が被告士郎方に集合して売主と買主を紹介しその折衝に入つたけれども売値が坪当り一二五、〇〇〇円に対し買値が一一〇、〇〇〇円であつたため交渉は進展せず、双方共妥結のために譲歩を考慮すると共に仲介者において更に斡旋に尽力することとして散会したこと及びその後被告らは原告ら仲介者を抜にして直接交渉をなし売買契約を締結するに至つたことを認めることができる。

被告会社は右集合の際原告塙の申出により、またその直後原告草木の申出により及び被告鳥居両名は右集合の際原告小島との話合により各斡旋依頼を合意解消したと抗弁するけれどもこの点に関する証人山口虎作、被告本人鳥居士郎の各供述は原告ら各本人の供述と対比し措信し難いし他に右合意解消の事実を認むべき証拠はない。

ところで不動産の仲介業者である原告らはその営業について尽力した以上別段の意思表示のない限り依頼者に対し相当の報酬を請求し得るところ原告本人塙源吾の供述により正しく作成されたと認められる甲第三、第七号証と同供述によれば、不動産の売買の当事者が契約締結の斡旋を仲介業者に依頼し、業者がその依頼に基づき当事者双方を紹介して折衝を進めた以上は、契約締結の際に業者が立会つていなくても、右の紹介と折衝が動機となつて当事者間に直接の交渉が進められ契約が成立したときは業者がその成立を現実に斡旋した場合と同様の規定の手数料を請求し得る事実たる慣習があり、業者の店頭には右の趣旨を記載した書面(甲第三、第七号証)が掲示してあつて客の容易に諒知し得る状態に置かれていること及び客から斡旋の依頼を受けた業者と共同して斡旋に尽力した業者は依頼者がその業者の介入を特に除外する意思を表明しない限り依頼を受けた業者の有する報酬請求権について依頼を受けない業者もこれと共同して右請求権を行使し得る事実たる慣習の存すること並に右報酬額は宅地建物取引業法第一七条による東京都告示第九九八号に定める原告主張の率によることの事実たる慣習の存することが認められる。

被告鳥居両名は原告小島に対する斡旋依頼は手取り一、八〇〇万円以上であることを条件とし手数料を差し引き同額以上である場合に限つて手数料を支払う契約の趣旨であり、また原告塙の介入は明確に拒絶したと抗弁するけれどもこの点に関する証人鳥居春之助の証言は措信し難いところであり他に右事実を認むべき証拠はない。もつとも春之助が原告小島に対し本件不動産を一、八〇〇万円以上で売つてもらいたい旨の申出のなされたことは同原告の認めるところであるが、右は同原告本人の供述によれば、被告鳥居側の売値の希望価額であるに止まり、それ以下の売買斡旋の場合には手数料を支払わない趣旨の話合がなされたとは認められないところである。

してみれば右認定の慣習に従わない趣旨の意思表示のなされたことの認められない本件においては斡旋依頼の当事者は右慣習に則る意思を有するものと認めるべきところ、その報酬金額は売買代金に対し前記の率によれば五六二、五〇〇円となることは計算上明らかであり、本件土地の内八七坪五合九勺は被告士郎の、七〇坪二勺は被告武の各所有であつて右代金は別段の事情の認められない本件では坪当り同一額で取引されたものと推認すべきであるから、右報酬額を右所有坪数割に按分するときは計算上被告士郎につき三一二、六〇〇円、被告武について二四九、八九七円となる。そして右報酬請求権は被告会社に対しては依頼を受けた原告草木、塙が共同で、被告鳥居両名に対しては同様原告小島が本来の帰属権利者であるところ、これと共同して斡旋に尽力したその余の原告らも共同権利者となるわけであるからその額は三分の一に分割される筋合である。

よつて右金額とこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかである主文記載の日以降完済まで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求める原告らの請求を正当として認容し民事訴訟法第八九条、第九三条、第一九六条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数)

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